「初めて見る軍の棺には、
あのマークが横たわっていた。
じっと目を閉じた彼の顔は、
とてもハンサムで、凛々しかった。
その彼に向かって、私は心の中で叫んでいた。
『マーク、先生に何か言ってちょうだい。
あなたが話してくれるのを待ってるから。
お願い、昔みたいに、おしゃべりをしてちょうだい』
教会は、マークの友だちで、
いっぱいだった。
チャックの妹が、
『戦死した兵士を天国へ送る歌』を歌った。
墓地に移動した後、
牧師のお祈りに続き、軍のしきたりにそって、
弔いのラッパの音が、響き渡った。
一人ずつ、棺に聖水を振りかけて、
お別れをした。
最後に、私の番がやってきた。
そこへ、棺の付添いとして立っていた兵士が、
近寄って来た。
『失礼ですが、マークの数学の先生ですか?』
私は、棺を見つめたままうなずいた。
『マークから、先生のことはよく聞いています』
とだけ言うと、その兵隊は、敬礼をして去っていった。
葬儀が終わると、クラスメートたちは、
会食のためにチャックの家に向かった。
そこでは、マークの両親が、私を待っていた。
『先生に、ぜひお見せしたいものがあります』と、
ポケットから、財布を出しながら、
父親が話しかけてきた。
『マークが死んだ時、身につけていたものです。
先生なら、これが何かおわかりになると思います』
そして、財布の中から、二つ折りになった紙を、
破れないように、丁寧に取り出した。
私には、それが何かすぐにわかった。
昔、クラスメート全員が、
マークのいいところを書き、
さらに、私が書き写した、
あのリストだった。
何度も、何度も、
マークが手にとって、読んだのだろう。
破れそうになったところを、
何か所も、テープでつなぎ合わせてあった。
マークの母親は、
『先生、ありがとうございます。
ご覧のとおり、
マークは、これを宝物にしていたんです』と話した。
教え子たちが、マークの両親と、
私のまわりに、集まってきた。
チャックは、はずかしそうにほは笑み、
こう言った。
『先生。僕、例のリストを、
まだ大事にとっているんですよ。
机の、一番上の引き出しに、入れています』
ジョンの妻も、その後をついで言った。
『私たちも、結婚記念アルバムに入れています』
『私もやっぱり持ってますよ、先生』と、
マリリンが続いた。
やがて、ビッキーが、
ハンドバッグから財布を取り出すと、
中から、すっかり古びて、
擦り切れた紙が現われた。
それを見せながら、
彼女は、目を大きく見開き、
まばたきもしないで言った。
『私も、肌身離さず持ち歩いています。
あのリストは、みんなにとって、それだけ大事なものだったんです』
その言葉を、聞いたときだった。
私は、ついにこらえきれなくなり、
椅子に座り込んで、泣き始めた。
死んだマークと、そのマークに、
二度と会うことのない友人たちのために、涙はとめどもなく流れ続けた」
ヘレン・P・ムロスラ